2009-09-07 16:23 | カテゴリ:学園
立花隆(たちばな・たかし) 評論家・ジャーナリスト。1940年(昭和15年)長崎生まれ。東大仏文科卒業後、文藝春秋社に入社。文藝春秋社を退社し、東大哲学科入学。在学中からフリーライターとして活動。東大先端研客員教授、東大教養学部非常勤講師などを経て、現在は東京大学大学院情報学環特任教授。その他に立教大学21世紀社会デザイン研究科特任教授、大阪大学レーザーエネルギー学研究センター参与、文科省次世代スーパーコンピューター開発利用アドバイザーリーボード委員なども務める。1974年に『田中角栄研究』で文藝春秋読者賞、1975年に『田中角栄研究 その金脈と人脈』で新評賞、1979年に『日本共産党の研究』で講談社ノンフィクション賞、1987年に『脳死』で毎日出版文化賞など数々の受賞歴がある。




1974年(昭和49年)、立花隆は 『文藝春秋』に「田中角栄研究~その金脈と人脈」を発表した。ロッキード事件に関する立花氏の記事は、他のマスコミの画一的なものとは違い、自らの足で集めた膨大な資料にもとづくものであり、田中角栄退陣のきっかけとなった。ひとりのジャーナリストの『調べて書く』行為が日本の政治を変えたのである。
この著書名にあった『調べて書く』という言葉に私は強い興味をもった。このことについて立花氏は、本書で以下のように述べている。

「なぜ、『調べて書く』なのかといえば、多くの学生にとって調べることと書くことが、これからの一生の生活の中で、最も重要とされる知的能力だからである。調べることと書くことは、もっぱら私(立花隆)のようなジャーナリストにだけ必要とされる能力ではなく、現代社会においては、ほとんどあらゆる知的能力において一生の間必要とされる能力である。」

本校のけやき祭でも、「調べて」それを「人に伝える」ことをプレゼンテーション形式で行う。広尾学園を卒業してからも社会のなかで活躍してほしいからである。「最も重要とされる知的能力」を身につけてほしい企画なのである。

この著書は、東京大学教養学部・立花隆ゼミの学生が、多くの著名人・一般人に、二十歳のころの自分についてインタビューしたものである。インタビューを受けた人は、経営者、医者、俳優、弁護士、小説家、宮大工、会社員、漫画家、音楽家等、様々な分野の人である。インタビューの内容は、「二十歳の頃にどんなことをしていて、どんなことを考えていたのか」、それから派生して、「二十歳の人へのメッセージやアドバイス」「もう一度、二十歳に戻れるとしたら」などの話もあり、その人の今に至るまでの考え方や感じ方の変遷、人生哲学まで語られている。

人生のターニングポイントが必ず二十歳前後にやってくるとは限らない。しかし、なにか大きな外的な出来事がなくても、社会から大人としての自由と責任を付与されれば、内的な成長とそれに伴う葛藤は、多くの人が二十歳前後に経験するものと思っている。そう考えると、二十歳前後というのは人の一生の中では大変に重要な時期なのだが、自分も含めて、自身がそのような状況にいるときは、ほとんどの人がその重要性に気づいていないのではないだろうか。本人が気づかないのは仕方ないとして、周囲にいる人生の先輩たちがそれを伝えてあげられないのは残念なことである。
 
本書を読んでいて強く感じたことは、二十歳までの人生には環境要因がものすごく影響を与えているということである。インタビューのなかから読み取れたのは、幼児期から大学生くらいまでの育った環境が、前向きになれる環境、刺激的な環境、危険な環境、知的な環境、不安定な環境など、どのような環境に該当するかが、その人の内的な成長を大きく左右するということである。私自身はもうとっくに「二十歳のころ」ではなくなってしまったので、今度は生徒たちにできるだけ良い環境を作ってやらねばならない…と考えている。

読み進んでいくうちに、どうしても私自身の二十歳のころを思い出すことになった。当時、私は自分の世界の狭さと志の低さを自覚していて、それをコンプレックスのようにも感じていたので、それを克服しようと必死だった。膨大な本を読み、世界中を回り、それらの資金を稼ぐためにさまざまなアルバイトをした。どの経験からも今まで知らなかった世界を知り、気付かなかったことに気付かされた。

立花氏は本書で次のように言っている。
「ぼくは、 ~略~ 経験に対して貪欲なんです。何か新しいことをしてみたいという気持ちがいつでもある。」

本書に登場する人たちが体験したような濃密な経験が自分にはできてはいなかったのかもしれない。五十歳のころになったときに、同じようなインタビューを受けたとしたら、この本に載せても見劣りしないような話ができるのか、自分自身に問いかけてみる。この本に出てくる人は、二十歳前後に積み上げたものの量がまったく違う。その分野の第一人者の人が殆どなので、志がとても高く、その人の原点を見ることができる。もし、ある人のことを深く知りたいのならば、二十歳のころの話を聞いてみるとよいのかもしれない。
 
この本でインタビューを受けた人たちの多くが、「読書から受けた影響」を語っている。「今の若者はもっと本を読め」と直接、話している人もいた。この本は、インタビューされた人の人数が多くて、分野も多肢に渡っているのがよい。そして、一人ずつのインタビュー自体はページ数が多くないので、それぞれを読み切りとして気軽に読むことができる。これから二十歳になる人、かつて二十歳だった人に読んでほしい。

<社会科 石田 剛>

二十歳のころ―立花ゼミ『調べて書く』共同製作二十歳のころ―立花ゼミ『調べて書く』共同製作
立花 隆東京大学教養学部立花隆ゼミ