2010-01-30 11:28 | カテゴリ:学園
三浦しをん 1976年東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。2000年に書き下ろし長編小説『格闘する者に○』でデビュー。2005年『私が語りはじめた彼は』で山本周五郎賞候補、同年7月『むかしのはなし』で直木賞候補となり、06年『まほろ駅前多田便利軒』で第135回直木賞受賞。小説作品に『月魚』『私が語りはじめた彼は』『風が強く吹いている』『きみはポラリス』『仏果を得ず』『光』など。エッセー集に『三四郎はそれから門を出た』『あやつられ文楽鑑賞』など多数。2008年から太宰治賞の選考委員、2009年から手塚治虫文化賞の選考委員を務めている。



今年も1月2日の朝8時、新年の儀式のようにテレビの前に座ってチャンネルをあわせた。色とりどりのユニホームがスタートの合図で一斉に画面の前の自分に向かって迫ってきた。正月の風物詩とも言える“箱根駅伝(東京箱根間往復大学駅伝競走)”である。「何故そんなに苦しそうなのに走るのだろう」といつも思いながら、見ている自分まで体に力が入って、知らず知らずのうちに応援をしている。やはり、人が風を切って走る姿は、見ているだけでも気持ちがよい。

『風が強く吹いている』(三浦しをん著)は、その箱根駅伝を舞台にした小説である。もちろん、話のなかには10人(箱根駅伝は往路・復路あわせて10人でリレーをする)の選手が登場する。個性豊かなメンバーが繰り広げる「箱根駅伝」への挑戦の過程では、箱根駅伝というメインテーマがただのエッセンスにすぎないと感じるほど、人間模様やそれぞれの選手の心の葛藤が深く掘り下げられている。走っている選手の心の描写が丁寧に表現されているため、本の中の世界へすぐに引き込まれ、読んでいる人も一緒に箱根を目指している気持ちになるのである。箱根駅伝本番のシーンは、正月に見ている中継さながらにスピード感があって、緊張感が伝わってくるので、実際にメンバー全員が、あの上ったり下がったりの起伏の激しいコースを、襷(たすき)をかけて懸命に走っている姿が目に浮かんでくる。
 
箱根駅伝のテレビ中継を見ながらふと考えた。そもそも、ただ走るだけのこの地味なスポーツのどこに魅せられているのだろうかと。個人的にはマラソンにはここまでは魅かれはしない。やはり駅伝には、襷を繋げるという行為があり、襷で繋がれた人の絆を見てとれるからなのかもしれない。襷と一緒に願いを繋げている。繋げようとする必死の形相(ぎょうそう)、繋がらずに泣きながら仲間に謝る姿。それが心に響いて、「もう十分にがんばった!」と伝えたくなる。

一本の襷を通して筆者が伝えたかったのは、勝負にさえ勝てばよいというものを超えた、“仲間を信じること”の大切さであると私は感じた。年度の終わりが近づいている今、一年間ともに過ごしたクラスの仲間の有難みを感じてほしい。

この本を読み終えた後は幸福感に包まれ、そして箱根駅伝が待ち遠しくなる。その襷を繋げようとする姿を直に見たいと思い、来年は鶴見中継所へ行こうと考えている。もう一度、この本を読みなおしてから。

<社会科 石田 剛>


風が強く吹いている風が強く吹いている
(2006/09/21)
三浦 しをん